税務調査において調査官が資料を持ち帰る際の対応について

税務調査の際に、調査官が資料を持ち帰るケースがあります。

ただし、調査官が当然のように帳簿や帳票類を持ち帰ることはできません。

調査官側も納税者側も、その行為が義務なのか任意なのかをまず把握する必要があります。

その内容につき、根拠規定を示しながらまとめました。

税務調査の根拠規定

税務調査には任意調査と強制捜査の2つがありますが、通常行われる税務調査はほとんど任意調査となります。

任意調査に係る税務調査については、国税通則法第74条の2に法的根拠が記されています。

国税通則法第74条の2

国税庁、国税局若しくは税務署(以下「国税庁等」という。)(略)は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、(略)その者の事業に関する帳簿書類その他の物件(略)を検査し、又は当該物件(その写しを含む。(略))の提示若しくは提出を求めることができる。

語尾が「できる」という規定なので、一般的な税務調査はあくまで任意ということになります。

税務調査は、税務署が調査に入りたいという意思を表明し、納税者がそれに協力するというのが前提となります。

ただし、税務調査の際に質問に答えなかったり、正当な理由なく偽りの帳簿を提出及び報告したりすると、国税通則法第128条(下記参照)により、懲役や罰金刑に処されることもあり得ます。

ゆえに任意調査による税務調査といえども、納税者には税務調査に応ずる義務(受忍義務)があるということになります。

但し、「義務」ではありますが、「強制」ではありません。

一種の言葉の綾とも言えますが、強制ではないので、税務調査中に調査官が机の引き出しなどを勝手に開けることはできません。

ただ、納税者に受忍義務があり、調査官に質問検査権がある以上、調査官が客観的に必要性ありと判断するときは、納税者同意のもと、調査官が机の中を見ることができます。

ゆえに通常業務に関係のないものは、普段から机の中に入れない方が好ましいということになります。

今のご時世に、勝手に机の引き出しを開けるような調査官はいないと思いますが、調査官が度を超えて強引な態度を示す場合には、調査官の上司などへ抗議するのも一つの選択肢となります。

(階級は、調査官<統括官<副署長<署長、なので抗議する際は上司へする方が効果的です。)

国税通則法第128条

 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

一 (略)

二 (略)(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

三 (略)(特定事業者等への報告の求め)の規定による物件の提示若しくは提出又は報告の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出し、若しくは偽りの報告をした者

上記規定の記載通り、税務調査で、調査官から帳簿書類等の提示若しくは提出を求められた場合、納税者は基本的に拒否することはできません。

資料の「留置き」について

税務調査に纏わる規定で困惑しやすいのが、「留置き」と「提出」の違いです。

似たような日本語ですが、内容は異なります。

まず「留置き」とは、国税庁のHPで下記のように規定されています。

法第74条の7に規定する提出された物件の「留置き」とは、当該職員が提出を受けた物件について国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の庁舎において占有する状態をいう。

HP:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/02.htm

税務調査に際に、調査官が納税者から資料を受け取り、持ち帰ることは「留置き」ということになります。

国税通則法第74条の7に、税務調査の際には必要に応じ、納税者から提出された物件を留め置くことができるとあります。

ただ、この留置きを調査官が強硬に主張することはできません。

国税庁の事務運営指針に、留置きについて下記の記載があります。

提出を受けた帳簿書類等の留置きは、

①質問検査等の相手方となる者の事務所等で調査を行うスペースがなく調査を効率的に行うことができない場合

②帳簿書類等の写しの作成が必要であるが調査先にコピー機がない場合

③相当分量の帳簿書類等を検査する必要があるが、必ずしも質問検査等の相手方となる者の事業所等において当該相手方となる者に相応の負担をかけて説明等を求めなくとも、税務署や国税局内において当該帳簿書類等に基づく一定の検査が可能であり、質問検査等の相手方となる者の負担や迅速な調査の実施の観点から合理的であると認められる場合

など、やむを得ず留め置く必要がある場合や、質問検査等の相手方となる者の負担軽減の観点から留置きが合理的と認められる場合に、留め置く必要性を説明し、帳簿書類等を提出した者の理解と協力の下、その承諾を得て実施する

上記の通り、相当の理由がある場合で納税者の理解がある場合に限り、調査官が納税者へ留置きをお願いすることができるとあります。

ゆえに納税者が承諾しない限り、留置きは任意であり、断ることができます。

仮に調査官が留置きを要求する場合は、上記のどの場合に該当するのかを示す必要があり、留置きをする理由を納税者に説明しなければなりません。

資料の「提出」について

国税庁HPの「留置き」の意義の箇所に、但し書きが下記のように記されています。

ただし、提出される物件が、調査の過程で当該職員に提出するために納税義務者等が新たに作成した物件(提出するために新たに作成した写しを含む。)である場合は、当該物件の占有を継続することは法第74条の7に規定する「留置き」には当たらないことに留意する。

HP:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/02.htm

さらに、国税庁の税務調査手続に関するQ&Aに、下記の記載があります。

調査の過程で調査担当者に提出するために新たに作成した帳簿書類等の写し(コピー)の提出を受けても留置きには当たらないこととしているのは、通常、そのような写し(コピー)は返還を予定しないものであるためです。

他方、納税者の方が事業の用に供するために保有している帳簿書類等の写し(コピー)をお預かりする場合は、返還を予定しないものとは言えませんから、留置きの手続によりお預かりすることとなります。

帳簿書類の持ち帰りは留置きにあたりますが、調査過程で帳簿のコピーを取られた場合、そのコピーは返還を予定しないものに該当します。

ゆえに、調査官が帳簿のコピーの持ち帰る行為は、「留置き」に該当せず、「提出」に該当することとなります。

前述の通り、帳簿書類等の「提出」は拒否することはできません。

すなわち、納税者は、「留置き」は拒否できますが、「提出」を拒否することはできないということです。

まとめ

税務調査の際は、納税者側は大抵過去3期分の総勘定元帳を準備します。

納税者は、その総勘定元帳を調査官へ提示する必要がありますが、調査官が元帳そのものの持ち帰りを主張する場合は、留置きの要請に該当し、納税者にその理由及び必要性を示さなければなりません。

仮に調査官が元帳を当然のように持ち帰ろうとする場合は、その調査官は国税庁の事務運営指針に反しており、納税者が留置きを拒否することができます。

但し、調査官が税務調査中に元帳の一部のコピーを取った場合、そのコピーの持ち帰りを納税者が拒否することは基本的にできません。

細かい論点ですが、税務調査においては重要なことなので、納税者において内容をきちんと把握することが大切です。

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