医療法人の理事長が、親から子へ変更となる場合の手続

親から子へ診療所を引き継ぐ場合、個人診療所であれば、引き継ぎとはいえ開設者及び管理者が変わるので、旧開設者(親)が診療所を廃止し、新開設者(子)が新たな診療所を開設する形となります。

医療法人で理事長である親が、理事である子へ引き継ぐ場合、開設者は医療法人のままなので、理事長や管理者を変更する手続のみとなります。

医療法人は医業の永続性が主たる目的であり、医療法人が存続し、法人内の構成員変更のみで地域医療に引き続き貢献することが求められているためです。

ゆえに個人診療所よりは、親から子への引継ぎは行い易いと言えますが、それでも手続は複雑であるため、入念な確認が必要となります。

いずれにせよ、行政への相談は綿密に行い、期限厳守の上、届出など漏れの無いように行うことが求められます。

(今回の記事は、親が理事長で子が理事であり、かつ、双方とも社員であることを前提としています。また、経過措置型の医療法人の場合、出資金の扱いの問題がありますが、今回の記事では取り上げません。)

理事長が親から子へ変更となるケース

理事長が親から子へ変更となるケースは、

・理事長自らが引退して次世代に引き継ぐ

・理事長が急病などで理事長の責を全うできない

・理事長の死亡

などが考えられます。

いずれのケースも理事長が退任した場合は、速やかに理事長を選任する必要があります。

医療法では、医師である理事から選出することが求められています。

医療法第46条の6

医療法人(次項に規定する医療法人を除く。)の理事のうち一人は、理事長とし、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する。(以下省略)

ゆえに近い将来、理事長が変更することが予め想定されているのであれば、後継者である医師を理事にしておくなど、準備を進めることが好ましいです。

また、医療法人の定款には、理事長に事故があった場合の記載があるはずです。

東京都の定款例には下記の記載があります。

定款(例)第33条第3項

理事長に事故があるときは、理事長があらかじめ定めた順位に従い、理事がその職務を行う。

医療法人によっては、常務理事が職務を行うという記載になっていることもあります。

医療法人は定款が全てなので、後継を考える際はまず、自社団の定款を確認することが大切です。

また、通常、理事長が退社し、社員を退任する場合は、法人内で社員名簿を改めて作成する必要があります。

ただし、社員の入社や退社に伴う書類や社員名簿などは、特に届け出る義務はありません。

医療法に社員の人数について定められていませんが、通常は3人以上とされています。

ちなみに理事の人数については、医療法に下記の定めがあります。

医療法第46条の5第1項、第2項

医療法人には、役員として、理事三人以上及び監事一人以上を置かなければならない。(以下、省略)

2、社団たる医療法人の役員は、社員総会の決議によつて選任する。

医療法第46条の5の3第1項

この法律又は定款若しくは寄附行為で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(省略)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。

理事長が退任することにより理事が3人未満になった場合は、速やかに社員総会にて理事を選任しなければなりません。新たに理事が選任されるまでの間は、退任する役員が権利義務を有することになります。

登記事項の変更

医療法人の場合、認可を貰っている都道府県への報告をする必要があります。

都道府県ヘは登記事項届の提出も必要となるため、まず登記簿の内容を変更しなければなりません。

登記簿謄本には理事長の氏名や住所が記載されるので、変更がある場合は、その変更の日から2週間以内に登記を行う必要があります。

必要書類は主に下記となりますが、登記は司法書士が行いますので、詳細は司法書士へ尋ねるのが確実です。

・社員総会議事録

・理事会議事録

・辞任届(死亡の場合は死亡届)

・新理事長の医師免許証写し

・定款写し

・印鑑証明書(役員及び社員)

参考、法務局HP: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252953.pdf

(社員総会議事録や辞任届などのひな型あり)

都道府県への届出

医療法人の認可を貰っている都道府県へは、「役員変更届」と「医療法人の登記事項の届出」が必要となります。

明確な期限は示されておらず、「変更後遅滞なく」と記載されていますが、早めに届け出る方が良いです。

「役員変更届」には、主に下記書類を添付する必要があります。

(議事録関係)

・役員名簿

・社員総会議事録

・理事会議事録

(新理事長関係)

・履歴書

・役員就任承諾書

・印鑑証明書

・医師免許証写し

(旧理事長関係)

・辞任届(死亡の場合は死亡診断書の写し)

東京都の役員変更届の場合、準備すべき書類一覧はHPで詳細に示されています。

参考HP:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/hojin/shinsei_hojin/yakuin.html

また、「医療法人の登記事項の届出」は登記事項証明書の原本を添付して提出します。

参考HP:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/hojin/shinsei_hojin/toki.html

保健所への届出

理事長及び管理者が変更するので、「診療所開設許可(届出)事項一部変更届」を提出する必要があります。

管理者は原則、理事の中から選ばなければなりません。

医療法第46条の5第6項

医療法人は、その開設する全ての病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院(省略)の管理者を理事に加えなければならない。(以下、省略)

届出に際する添付書類は主に下記ですが、保健所により異なることもあるので、必ず事前に担当者に確認することをお勧めします。

届出期限は、変更後10日以内です。

・医師免許証写し(届出の際は原本持参。保健所によっては原本証明でも可。)

・臨床研修等修了登録証の写し(2004年度以降医籍登録の該当者のみ。届出の際は原本持参。保健所によっては原本証明でも可。)

・履歴書(顔写真の有無は保健所に要確認)

・社員総会議事録(管理者が理事であることの確認のため)

参考HP:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/tamafuchu/iryou/shinryojo_shika/shinryo_shika_henko/henko_go.html

厚生局への届出

保険医療機関に変更が生じているので、厚生局へ「保険医療機関の届出事項変更の届出」を提出する必要があります。

明確な期限は示されておらず、「速やかに」と記載されていますが、早めに届け出る方が良いです。

・新理事長(新管理者)の保険医登録票の写し

・診療所開設許可(届出)事項一部変更届控え(収受印のあるもの)

その他

理事長が変更となった場合、他にも様々の手続を行わなければなりません。

主に下記を行う必要があります。

 ・税金関係…税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ異動届等

 ・社会保険関係…年金事務所へ変更届

 ・金融機関関係…口座名義の変更手続等

その他、旧管理者死亡の場合には、下記の手続も必要です。

 ・保健所…保険医死亡届(保険医登録票原本添付):死亡後速やかに

 ・厚生局…医籍登録抹消申請(医師免許証原本、死亡診断書など添付):死亡後30日以内

まとめ

理事長が親から子へ変わる場合の手続きをまとめましたが、予め準備して引き継がれるケースと、急病や死亡により突然引き継がれるケースでは、準備する書類に差異も生じます。

いずれにせよ税理士、司法書士、社会保険労務士と細かく意思疎通を行い、綿密な連携を行っていくことが求められます。

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