医療法人が生命保険に加入するに当たり注意すべきこと

医療法人で生命保険に加入するべきか否かはケースバイケースですが、医療法人化後も引き続き売上が上がり、先生への報酬がある程度見込めるのであれば、積極的に検討すべきと思います。

当事務所の生命保険に関する考え方はこちら

基本的に生命保険は節税にはならず、単に課税の繰り延べとなるだけですが、リスクヘッジという意味ではとても有効です。

検討する場合は、先生の将来設計を含めた観点から、様々な商品を見定めることが必要です。

クリニックの先生と保険会社の関係は、税理士よりも長く、かつ、深いことも多いので、私は顧問先の商品それぞれに意見を言うような真似はしません。

保険を扱うのはあくまで保険会社であり、専門でもない税理士が横槍を入れるべきではないからです。

ただし、保険会社の方からの商品紹介などで、クリニックの現状に比して明らかに看過できない場合は、先生へ提言することもあります。

それは下記のような場合です。

・未だに節税になるようなことを仄めかして商品を紹介するケース

・資金繰り度外視で高額な積立型商品を紹介するケース

・リスクの説明無しに、医療法に抵触するようなスキームを提案するケース

以下、個別に説明します。

医療法人の節税のためと称して商品を紹介されるケース

少なくとも生命保険加入は、医療法人化後にすぐに考えるべきことでは無いと思います。

まずは医療法人の経営状態、財産状況を把握し、今後も一定程度の売り上げが見込めるのであれば、加入を検討するべき段階に入ったと私は考えています。

稀に、個人より法人の方が税金面で得になるからという理由だけで、医療法人化をやたらと勧める方もいますが、医療法人化はメリットもある反面、デメリットも数多くあります。

生命保険で得をしようと医療法人化を行うのは、あまりに稚拙な考えです。

資金繰りを考えずに、高額な積立型商品を勧められるケース

売上増が見込めるからと、医療法人にとって明らかに高額な商品が勧められるケースがあります。

特に、多額な終身の積立型商品の提案があった場合は、加入前に一度考えを整理することをお勧めします。

医療法人の終身保険加入を否定することはしません。

長期平準定期や逓増定期などは一部が損金になるため、こちらの方が税金対策になって良いという考えもありますが、資金に余裕があり、医療法人の将来やリスクを考えて、それが最善であれば、終身保険加入も一つの手段と思います。

ただ、金融機関に対する融資返済がまだ多額にある場合や、先生個人への借入や基金が多く計上されている場合に、高額な終身保険を提案する行為は流石に理解に苦しみます。

直近の決算書や試算表を少し見れば、保険会社に属する方であれば、医療法人の資金繰り状況などある程度は把握できるはずです。

例えば、医業未収金残と預金残がさほど変わらない場合や、預金月商比率が1程度であれば、資金繰りにそこまで余裕がないことはすぐに分かります。

仮に税金対策となっていても、経営状態を悪化させては本末転倒です。

口座から保険料の支払が行われる以上、資金繰りが良くなるはずはないので、保険加入の際は、必ず自院の財務状況を確認することが大切です。

医療法に抵触するようなスキームが提案されるケース

株式会社は会社法を基に設立されるものですが、医療法人は医療法を基に設立されています。

ゆえに株式会社と医療法人は基準とすべき法そのものが異なるので、同一に考えてはいけません。

株式会社では問題ない行為でも、医療法人では許されない行為というのは多々あります。

一昔前の低解約返戻型逓増定期保険における名義変更プランなどは、その代表的なものですが、仮に税法上問題無い行為であっても、それが医療法上問題無いか否かを検証しなければなりません。

その行為が、役員1人の利得のために行われていて、かつ、税金対策とはいえ医療法人に損害を与えているのであれば、医療法抵触を疑われても仕方のないことです。

数年前まで、「関係事業者との取引の状況に関する報告書」の記載が該当なしであれば、問題になることはあまりありませんでしたが、近年は事業報告書の損益計算書の内容に関して都道府県等から問い合わせがあるケースも増えているので、注意が必要です。

保険会社から生命保険を利用した税金対策について提案があった場合は、まず顧問税理士もしくは顧問行政書士に相談することを勧めます。

保険会社の方が医療法をあまり意識していないこともあるので、仮に上記のような節税プランを提案された場合は、そのスキームが医療法に抵触する可能性があるか否かを尋ねる方が賢明です。

まとめ

繰り返しとなりますが、将来の保障の為に医療法人で生命保険に加入することは大切です。

仮に理事長に万が一のことがあった場合、生命保険加入により遺族が救われるケースも多々あります。

ゆえに各々の商品を見定め、財務状況と保障内容の双方を把握して加入を検討することが大切です。

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