医療法人化の際にネックになる書類(特に覚書)は事前準備が大切

都道府県知事へ医療法人化を申請する際は、膨大な書類が必要となりますが、書類集めでネックになるのは、設立代表者の方で準備できない書類です。

事業計画書や予算書、理事の履歴書や印鑑証明書等は、設立代表者側で努力すれば早めに準備することは可能です。

設立代表者側で準備できない書類とは、第三者に準備して頂く書類のことで、主に下記を指します。

 ・不動産賃貸借契約引継承認に係る覚書

 ・債務引継承認願

 ・リース引継承認願

上記のうち、債務引継承認願やリース引継承認願は、相手方が手配に慣れていることも多く、法人化申請前に支障となることはそれほどありません。

問題となりやすいのは、不動産賃貸借契約引継承認に係る覚書です。

診療所を賃貸借で借りている場合、医療法人化に伴って契約が個人から法人へ承継されることを証する覚書が必要となります。

この覚書には所有者や賃貸人の印鑑押印が必要となりますが、この覚書に印鑑を貰えないケースは結構多いようです。

但し、この覚書を提出しないと医療法人化申請は絶対に通りません。

私もこの覚書に関して肝を冷やした経験がありますが、この覚書を準備する際の注意点を考察しました。

賃貸人が多数の場合は早めに手配する

東京都福祉保健局の医療法人設立の手引の覚書の作成上の注意には、下記の記載があります。

6 貸主(所有者)が複数である場合は、連名で作成するか、貸主(所有者)ごとに作成してください。

貸主が複数の場合、1枚の用紙に連名で記名押印するか、貸主ごとに作成する必要がありますが、いずれにせよ、貸主全員の印鑑が必要となります。

全員がその覚書内容に同意し、かつ、印鑑を押して頂くことが求められるため、貸主の人数が多ければ多いほど、覚書を準備できないリスクは高まります。

私が過去に医療法人化設立申請した際も、賃貸人がかなりの人数だったことがあります。

幸い、その際は一人も異議を唱えることなく、スムーズに覚書を準備できたのですが、後から考えれば運が良かったのだと思います。

留意しなければならないのは、仮申請段階で都道府県から了承を頂いてから本申請までは、意外と日数が短いケースがあることです。

仮申請の審査が長引くと、それだけ準備期間が短くなります。

それでも、その間に賃貸人全てから押印を頂くことが必須のため、賃貸人の中に遠方に住んでいる方がいる場合などは注意が必要です。

契約書名義と賃貸人が同一か確認する

診療所建物を賃貸している場合、基本的に、契約書に記載されている賃貸人と、登記簿謄本の建物の名義人が一致している必要があります。

ゆえに医療法人化申請の際は、賃貸借契約書写しと登記簿謄本の双方の提出が求められています。

契約期間中に貸主が変更されていることもあるので、その場合は、そのことが証明された通知などの書類が必要です。

貸主が個人の場合で、相続が発生している場合などは注意しなければなりません。

また、賃貸借契約が転貸であるケースもあるため、その場合は所有者の承認も必要となります。

賃貸人が大企業の場合も早めの手配が必要

賃貸人が上場企業などの大企業の場合は、社内で稟議などがあり、印鑑一つ押すのに時間がかかる傾向があるので、相手の担当者と細かく意思疎通して準備する必要があります。

覚書の内容を精査された結果、印鑑を貰うことが出来ないケースもあるようなので、かなり事前から丁寧に説明することが求められようかと思います。

定期借家契約の場合は契約書を確認する

今回のテーマとは若干ズレますが、診療所の契約が定期借家契約の場合は、その契約内容を細かく確認する必要があります。

永続性が求められる医療法人がテナントを賃借する場合、賃借期間が長期間に渡ることが条件であるため、自動更新の無い契約では原則として医療法人化は認められません。

その場合は、自動更新することができる旨を覚書に記載する必要があります。

自動更新の無いことが定期借家契約の特長ですが、それを否定する文言を覚書に入れる必要があるので、賃貸人がその覚書にすんなり印鑑を押すか否かは微妙なところです。

将来的に医療法人化を視野に入れているのであれば、個人で開設する際に、診療所を定期借家契約でしか締結できないテナントは避ける方が良いと思います。

まとめ

覚書をスムーズに貰う手段として一番有効なのは、当初診療所を個人で開設するときに、予め賃貸人へ話をしておくことです。

将来的に医療法人化したい旨を伝え、覚書のひな型を賃貸人へ提示し、当該書類に印鑑が必要となることを伝えておけば、申請前に突然提示するより、話は円滑に進むはずです。

それ以前の問題ですが、契約書に記載されている賃貸人と登記簿謄本上の所有者が一致しているかなどは、開設前にきちんと確認するようにしましょう。

基本的なことを恙なく行うことが、後々の許認可を支障なく進めるための常道となります。

東京都の覚書のひな型

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/hojin/tebiki.html

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