医療法人の監事を変更する際に注意すべきこと

先日、とある方と医療法人の監事の変更について検討を行う機会がありました。

監事が変更となるケースは主に下記が挙げられます。

・任期満了に伴う退任

・任期途中に監事が自ら辞任届を提出

・社員総会の決議による解任

監事が変更する場合に注意すべき点は、下記の2つが考えられます。

・新たに監事に就任する方への説明

・仮に解任する場合は、正当な理由がなければならないこと

監事の職務内容や責任、変更する際の注意点をまとめました。

監事の職務について

医療法人社団の監事の職務は、医療法第46条の8に記載されています。

医療法第46条の8

監事の職務は、次のとおりとする。

一 医療法人の業務を監査すること。

二 医療法人の財産の状況を監査すること。

三 医療法人の業務又は財産の状況について、毎会計年度、監査報告書を作成し、当該会計年度終了後三月以内に社員総会又は評議員会及び理事会に提出すること。

四 第一号又は第二号の規定による監査の結果、医療法人の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくは定款若しくは寄附行為に違反する重大な事実があることを発見したときは、これを都道府県知事、社員総会若しくは評議員会又は理事会に報告すること。

五 社団たる医療法人の監事にあつては、前号の規定による報告をするために必要があるときは、社員総会を招集すること。

六 (略)

七 社団たる医療法人の監事にあつては、理事が社員総会に提出しようとする議案、書類その他厚生労働省令で定めるもの(略)を調査すること。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を社員総会に報告すること。

八 (略)

簡潔にまとめると、医療法人の業務や財産状況を監査して、事業年度終了後3カ月以内に監査報告書を社員総会及び理事会に提出することが、監事の主な職務ということになります。

監査の結果、不正行為が見つかれば、社員総会を招集の上、その旨を報告しなければなりません。

監事の責任について

監事就任を依頼された方は、自身の責任について気にされると思います。

医療法において、監事の責任については主に下記のように定められています。

医療法第46条の5第4項

医療法人と役員との関係は、委任に関する規定に従う。

医療法第47条第1項

社団たる医療法人の理事又は監事は、その任務を怠つたときは、当該医療法人に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。

医療法第48条第1項、第2項

医療法人の評議員又は理事若しくは監事(以下この項(略)において「役員等」という。)がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたときは、当該役員等は、これによつて第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 理事 (略)

 監事 監査報告に記載すべき重要な事項についての虚偽の記載

大まかにまとめると、下記のように解釈されます。

・医療法人と監事は委任関係にあり、監事としての任務を怠ったときは医療法人に損害賠償責任を負う(医療法人への責任)

・監事が監査報告書に虚偽記載をするなど、職務に関し悪意や重過失があった場合は、第三者に損害賠償責任を負う(第三者への責任)

医療法人内で不正が無く、監査報告書に虚偽の記載を行わなければ、賠償責任を負うことはありません。

監事の就任を依頼する場合若しくはされた場合、理事と監事双方で綿密に話し合い、互いの責務について確認することが求められます。

監事の人選について

医療法の規定により下記の方は監事になることができません。

・当該医療法人の理事

・当該医療法人の職員

医療法第 46 条の5第8項

監事は、当該医療法人の理事又は職員を兼ねてはならない。

そして医療法人運営管理指導要綱には下記の記載があるため、理事の親族も監事に就任することは望ましくないとされています。

医療法人運営管理指導要綱 (6)監事

他の役員と親族等の特殊の関係がある者ではないこと。

医療法人運営管理指導要綱:https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000548754.pdf

そのほか、例えば東京都の手引には下記の記載があります。

次の者は、監事に就任することができません。

・ 医療法人の理事(理事長を含む。)の親族(民法第725条の規定に基づく親族)

・ 医療法人に拠出している個人(医療法人社団の場合)

・ 医療法人と取引関係・顧問関係にある個人、法人の従業員

 例:医療法人の会計・税務に関与している税理士、税理士事務所等の従業員

民法第725条の規定に基づく親族とは、六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族を指します。

監事就任を、親族や顧問税理士及びその職員等に依頼できないとなると、人選がなかなか難しくなります。

過去に私が携わった案件では、医療法人化を経験している知人の医師に依頼することが多いです。

人選が難しいという事情を把握しているので、比較的依頼しやすいようです。

ちなみに、医療法で、「監事は、当該医療法人の理事又は職員を兼ねてはならない。」と規定されています。

例としてあまり無いと思いますが、監事が社員になることは問題無いと解釈されます。

監事変更の際の手続

都道府県等に役員変更届を提出する必要があります。

任期満了に伴う退任と、任期途中による辞任で添付書類は基本的に同じですが、辞任の場合は辞任届が必要となります。

東京都の場合は下記となります。

・役員名簿

・社員総会議事録

・新監事の履歴書

・新監事の役員就任承諾書

・新監事の印鑑証明書(発行から3か月以内)

・辞任届(辞任の場合のみ)

現在の監事を解任する場合

監事の解任は、最高意思決定機関である社員総会の決議により行うことができます。

医療法第46条の5の2

社団たる医療法人の役員は、いつでも、社員総会の決議によつて解任することができる。

2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、社団たる医療法人に対し、解任によつて生じた損害の賠償を請求することができる。

3 社団たる医療法人は、出席者の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあつては、その割合)以上の賛成がなければ、第一項の社員総会(監事を解任する場合に限る。)の決議をすることができない。

医療法人が監事を解任する場合、正当な理由が無ければ損害賠償請求される可能性はあります。

監事は社員総会の決議によって選任され、かつ、任期は長くても2年なので、できるだけ解任という方法ではなく、退任時に重任しないという選択肢を探りたいものです。

医療法第46条の5第2項

社団たる医療法人の役員は、社員総会の決議によつて選任する。

まとめ

監事は理事に比べ人選が難しい役職です。

できるだけ医療法人制度に理解を示し、客観的な立場で法人監査をして頂ける方に就任をお願いすることが望ましいです。

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