税務調査の観点から診療所が確認すべき事項③(交際費)

税務調査では売上、売上原価、費用など、基本的に満遍なく見られますが、交際費については特に細かくチェックされます。

交際費については、個人診療所と医療法人でその定義が異なるため、それぞれの立場で考察する必要があります。

個人診療所における交際費

必要経費の定義

所得税法第37条の必要経費では下記のように定められています。

所得税法第37条(必要経費)

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(略)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

必要経費について、上記の条文を純粋に読む限りにおいては、

・「所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」

・「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額」

の2つが必要経費と考えられます。

(アンダーラインの「直接」という言葉が、現状で様々な形で解釈されています。ここでは詳細を述べませんが、過去の判例及び国税庁のHPを総合的に参照して、個別事案毎に判断していくのが得策と思われます。)

そして、支出した金額のうち、当然のことながら家事関連費は必要経費にできません。

所得税法第45条(家事関連費等の必要経費不算入等)

居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。

 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの

(以下略)

実務上の対策

所得税においては、交際費の定義が明確にされているわけではありません。

ゆえに個別に判断していく必要があります。

明白なこととして、診療業務に関係のある取引先への交際費であるか否かが論点となります。

診療所であれば、医薬品卸や医療機器会社、顧問税理士や社会保険労務士等が該当します。

在宅医療を主に行っているのであれば、機能強化型連携先の病医院、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所なども含まれることになるでしょう。

逆に交際の相手が知人や友人に過ぎず、診療業務に全く関係ない内容の会食等であれば、交際費計上は難しいと考えられます。

相手が知人の医師であれば、普段から積極的に情報交換をしている間柄であり、患者対応方法や診療点数基礎を学び合うなどの実績があり、売上に関わっていることを説明できるかどうか等が焦点となると思います。

税務調査対策として、交際費に関しては、その領収書にでも下記の事項を記載することを勧めます。

 ・相手の氏名

 ・相手との関係性

 ・交際目的など

医療法人における交際費

交際費の定義

法人における交際費は、租税特別措置法で定義されています。

租税特別措置法第61条の4第6項

(略)交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下この項において「接待等」という。)のために支出するもの(次に掲げる費用のいずれかに該当するものを除く。)をいい、(略)接待飲食費とは、同項の交際費等のうち飲食その他これに類する行為のために要する費用(専ら当該法人の(略)役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く。(略))であつて、その旨につき財務省令で定めるところにより明らかにされているものをいう。

 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用

 飲食費であつて、その支出する金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額が政令で定める金額以下の費用

 前二号に掲げる費用のほか政令で定める費用

通常、年度の交際費は800万円まで全額経費計上が可能となります。(一部例外あり)

一診療所経営の形で、年度で800万もの交際費を計上することはあまりないと思いますが、限度額の範囲内であれば経費計上できます。

また、外部の方との飲食費で1人当たり5千円以下であれば、上記800万円の制限を受けることなく経費計上可能です。

領収書には、参加者や参加人数などを、できるだけ細かく記載するようにしましょう。

交際費以外の経費

法人では交際費は上記の通りに定義づけられているので、その定義から外れていれば交際費に計上する必要はありません。

それぞれの内容を把握して、適切な勘定科目で処理することが求められます。

判断に迷う科目は主に下記となります。

会議費との区別

取引先との飲食であっても、会議室を借りて軽食をした場合などは、交際費でなく会議費に該当します。

法人内部での会議も勿論会議費となりますが、参加者が身内しかいない場合は、単なる私的な会食と指摘される可能性があります。

仮に調査で指摘された場合、実際に会議の実態があったのかを説明しなければなりませんので、会議の議事録の作成などを都度行う方が良いです。

福利厚生費との区別

診療所の従業員への慰安のために行われる食事代は、交際費でなく福利厚生費に該当します。代表的なものは納涼会や忘年会です。

 また、従業員への一時的な慶弔費(結婚祝、出産祝、香典など)も基本的に福利厚生費として経費計上が可能となります。

参考:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5261.htm

ただし、診療所が毎日のように弁当を購入し、従業員へ支給している場合は、福利厚生費に該当しますが、経費計上するには一定の要件があります。

・役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。

・次の金額が1か月当たり3,500円(消費税および地方消費税の額を除く。)以下であること。

(食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)

この要件を満たしていなければ、食事の価額から役員や使用人の負担している金額を控除した残額が給与として課税されることになり、源泉所得税の課税対象となるので注意が必要です。

参考:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2594.htm

広告宣伝費との区別

法人外部の方へ、診療所案内などのパンフレットを作成し配ることがあります。

配布対象が、患者を含めて不特定多数であれば、基本的には広告宣伝費に該当します。

参考:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5260.htm

注意点として、期末近くにパンフレット作製を発注して仕入れた場合、期末に在庫として残っているケースがあります。

在庫として残っている分は資産計上しなければならず、その期に費用計上はできません。

通常、請求書には1部当たりの単価や印刷部数などが記載されているので、期末に在庫がある場合は、計算して計上するのを失念しないようにしましょう。

一定の場合は交際費計上に限りがある

下記の場合は800万円の制限などが無く、飲食代の50%までしか経費計上できません。

・経過措置型医療法人…出資金1億円超

・基金拠出型医療法人…{(期末総資産簿価-期末総負債簿価-当期利益(又は+当期欠損金)}×60%が1億円超

基金拠出型医療法人や、定款変更による出資持分のない医療法人の場合、上記計算式で逆算すれば、純資産額が約1億6千万位に近づいたとき、注意を要しなければなりません。

大幅に経費計上できる金額が変わることになるので、予め計画して医療法人運営を行う必要があります。

まとめ

税務上の交際費についてまとめました。

診療所の規模によって、交際費の目安が決まっているわけではありません。

仮に、診療所の規模に比して交際費が高すぎると指摘されたとしても、特にその指摘に根拠はありません。

ただし、交際費であると主張するには、当然診療所としても一定の説明責任を果たす必要があります。

経費計上するためには、日頃から領収書に詳細を明記するのを心掛けるようにしましょう。

明らかに私的な飲食は必ず除外し、無駄に疑われることの無いよう注意して下さい。

error: Content is protected !!