在宅医療を中心とした診療所を開設予定の先生に頂く質問で多いのは、「開業前に準備すべきことは何か」ということです。
開設場所選定や融資のための事業計画書作成、従業員採用、保健所への事前相談、その他各種諸官庁への届出など、検討すべき事項は山ほどありますが、それ以前の大前提として、先生が将来的なビジョンをどう描くかが一番大切と思います。
(※ここでの在宅医療を中心とした診療所とは、外来機能も設けた診療所を指します。在宅医療専門診療所については触れていません。また、一定の企業と提携されているような診療所についても、このコラムの内容の対象外となります。)
Contents
将来的な診療所の規模を考察する
在宅医療を中心とした診療所については、将来的な規模をどのようにするかが一つの目算となりますが、実際は大きく下記の3つに分類されているように思います。
(小規模や大規模などの表現は、ドクターによって捉え方も異なりますので、あくまで当事務所の私見となります。)
比較的小規模な診療所
常勤医師は基本的に院長先生1人で、むやみに患者数を増やさず、居宅の重症患者をメインにして、受け持ち患者への診療をじっくりと行う。
必要であれば、事務員もしくは看護師を各1名程度雇用し、形態は個人診療所のままで、診療圏も負担にならない範囲に限る。
中規模診療所
非常勤医師、看護師、事務員を必要な範囲で複数名雇用し、基本的に居宅をメイン、必要又は要請に応じて一部施設患者を受け持つ。
基本的に常勤医師は院長先生1名(場合によって常勤医師雇用も行う)で、売上規模や開業後の方向性により医療法人化を検討する。
他職種連携は緊密に行い、施設基準は機能強化型在支診を前提に、在宅緩和ケア充実診療所加算を維持できる規模。
大規模診療所
積極的に人材採用を行い、医師や看護師のみならず専門運転手や理学療養士も雇用する。
医師分院展開や自前の訪問看護ステーション併設を行って、一組織で総合的に全診療体制を管理する。
常勤医師を複数名雇用し、夜間や週末待機を、ある程度余裕を持って回せる規模。
以下、比較的小規模な診療所及び中規模診療所に絞って、それぞれの特徴及び方向性について私見をまとめました。
運営の方向性を決める
比較的小規模な診療所(主に個人診療所)の主な特徴
中規模診療所の主な特徴
・仕事の分散が可能となるため、小規模診療所と比較すると休みを取りやすい
・施設を担当すれば、受け持ち患者数が極端に減ることはあまりない
・医療法人化すれば、納税負担のみ考えれば、個人診療所に比較し軽くなる
・施設患者が増えると、受け持ち患者数も増加し、オンコールも増える
・採用や院内管理など、マネジメント業務の負担が増える
・従業員が増えると院内トラブルの可能性も増加する
小規模な診療所運営を考えている先生は、従業員雇用やトラブルを避けたいことや、過度な営業活動を控えたいと考えている方が多いように思います。
先生の業務は主に、訪問診療や他職種連携・営業活動などの院外業務と、従業員雇用や内部管理などの院内業務の2つですが、ドクターにも得手不得手があり、双方を上手に両立できるドクターなど稀と思います。
少人数運営であっても、負担が過重にならないように、自らできる範囲で工夫し回せるのであれば、それも一つのクリニックの姿と思います。
診療所開設前に行うべきことを考察する
他職種連携の確保
開設前にまず行うべきことは、開設地近くの訪問看護ステーションの看護師や、居宅介護支援事業所のケアマネジャーなどに挨拶へ行き、自らの診療所を認知して頂くことです。
また、近隣に病院があれば、地域医療連携室に顔を出すなどして診療所の業務を知ってもらえるようになれば、退院患者の受け皿につながるかもしれません。
在宅医療を中心とした診療所の場合、患者の口コミや紹介よりも、他職種の方々からの紹介が売上のほとんどのシェアを占めますので、開設当初から懇切丁寧な診療を心掛けていれば、診療所の評判に繋がり、引き続き新患を紹介してくれるようになります。
医師1人体制で行う場合、患者獲得のため開業当初は多少診療圏を広めるのはやむを得ないと思いますが、受け持ち患者数が増えると手が回らなくなり、逆に遠方の患者は断らざるを得なくなるケースが多いように思います。
上記規模の診療所であれば、先生自身の体力的な負担を考えても、診療圏を限るのは一つの手段として考えるべきです。
ただ、診療圏が狭まった後、再び診療圏が広がり、やがて診療所の周りの患者がいなくなる現象(いわゆるドーナツ化)になっている場合は、患者や紹介者から診療に不満を持たれているシグナルとなっている可能性があるので、今一度、診療方針を見直すことも必要と思います。
先生の診療そのものに不満があるのではなく、例えば往診対応が常に遅いことや、相談しづらい、コミュニケーションを取りづらいなど原因は様々と思われます。
訪問看護ステーションの看護師は、医師に一方的な診療を求めているのではなく、どれだけ自らや患者の理解に努めてくれるかを見ているようです。
患者の口コミもさることながら、訪問看護師やケアマネジャーに悪評が広がると、そのまま新患紹介減少につながるので、他職種からの信頼は在宅医療中心の診療所運営を行うに当たって、まさに命綱と考えるべきです。
従業員の雇用を考える
規模拡大を当初の目標とする場合でも、開設してしばらくは受け持ち患者も少ないため、先生一人で診療から雑務まで回すことも可能です。
ただ、地域の多職種連携や適切な診療を心掛けていれば、いずれ受け持ち患者は増え続けます。
仮に将来的な従業員雇用を考えるならば、事務員や看護師に業務内容説明や雑務を教えるのは、この開設当初の比較的時間があるときが好ましいので、もし自院の方針に見合うような方がいるのであれば、先行投資の意味で早めに雇用するのも一つの手段です。
開設後数年経ち、院長先生が診療で多忙を極めると、なかなか教える時間も取れず、従業員が現状の仕事へ不満を持つようになり、やがて退職するという負のスパイラルは往々にしてあることです。
また、事務員はともかく看護師などは、雇用したいときに応募をかけても、自院の診療所に見合った希望の人材に巡り合う機会など、そう多くはありません。
訪問診療に精通している従業員などは、絶対数がそもそも少ないので、仮に経験者が近くにいるのであれば、予めスカウトして早めに声を掛けるのも良いと思います。
院長先生の仕事は診療だけではなく、院内業務の整備はもちろん、地域の多職種とのネットワーク構築や情報収集なども平等に時間を取る必要があります。
開設当初の段階で上手に従業員へ仕事を振り分けて、従業員ができうる限りの仕事をマスターし、先生がいかに院外業務への時間を割くことができるかがスムーズな診療所運営のカギとなります。










・居宅患者のみに絞れば、比較的オンコールが少ない
・重症患者が主であれば診療点数が高いため、受け持ち患者数を抑えて細かな診療ができる
・採用や雇用に関する煩わしさは少ない
・経費が少ないため税金負担に苦慮する(ケースによる)
・基本的に長期休暇は取れず、院内業務含め全般を行う必要がある為、体力的負担が大きい
・診療点数が高くなるため、個別指導等が入る可能性が高い