MS法人が建物を所有している場合、継続的な税務上のメンテナンスが必要となる

私見として、今の時代に一診療所で、節税を主体としたMS法人の役割は形骸化していると思っています。

それでも、経常的に利益が多額に発生するような診療所にとっては、一定の節税効果はあります。

MS法人を活用する場合の一つとして、医療法人の理事長が土地を所有し、建物がMS法人名義としているケースがあります。

その場合、MS法人で毎期、継続的にかつ適正に経理していることが求められます。

その注意点等についてまとめました。

土地の無償返還に関する届出書の有無の確認の必要性

前述の通り、医療法人の理事長が土地を所有し、建物がMS法人名義であるケースを想定します。

仮にMS法人が理事長から土地を無償で賃借(使用貸借)する場合、MS法人は理事長から借地権の贈与を受けたものとされ、本来であればMS法人は贈与税を納める必要があります。(いわゆる借地権の認定課税)

借地権の認定課税を回避するには、MS法人が土地の取引価格等の年6%の地代を理事長へ支払う必要がありますが、この場合、一般論として年6%はかなりの高額な金額です。

医療法人の理事とMS法人の役員兼務は、基本的に認められていませんが、MS法人の役員は理事長の親族であることが大半と思います。

親族が代表を務める法人に対し、年6%もの地代を支払うのは、少なくとも合理的とは言ません。(実際に地代年6%を支払っているケースは、現在では皆無と思われます。)

現状で、相当の地代支払も回避するために、「土地の無償返還に関する届出書」というものがあります。

この届出書を税務署へ提出すると、借地権の認定課税がされず、かつ、相当の地代支払も必要がなくなります。

届出書の名の通り、将来的には借地権を無償で返還することの約束書のようなものです。

ゆえに、上記のようなケースの場合、通常は土地の無償返還に関する届出書を提出します。

その場合、理事長とMS法人との間で、当然賃貸借契約書を締結しますが、その契約書には、土地の使用後は無償で返還する旨の記載をすることになります。

この届出を行うことにより、借地権認定課税回避の他に、後述する相続税対策にもなります。

過去に税理士を変更している場合等は注意が必要ですが、まず届出書の有無を確認することが大切です。

届出書は、通常は税務署へ4通(貸主、借主、貸主管轄税務署、借主管轄税務署)提出しているはずであり、理事長とMS法人であれば、2通の控えが手元にあると思います。

参考HP:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_48.htm

届出書提出による効果と注意点

土地の無償返還に関する届出書の提出により、借地権認定課税や年6%地代支払が回避できるので、贈与税や所得税の負担軽減となります。

そして、MS法人から理事長へ地代を支払う形とすると、さらに相続税対策となります。

仮に理事長に相続が発生した際に、土地を貸宅地評価(80%)できる上、小規模宅地等の特例の適用対象となり、相続税の減額を見込めるためです。

地代の額は、固定資産税の3倍程度であれば問題無いと思われます。

但し、MS法人の株式評価の際に注意が必要となります。

理事長がMS法人の株主となっているケースで、その理事長の株式持分の評価をする場合、MS法人の株式評価の純資産価額計算上、借地権評価額(土地自用地評価額の20%)を計上する必要があります。

土地所有者である理事長が、MS法人を通じて土地を使用することが可能なためです。

逆に、土地所有者と法人株主が別人の場合は、借地権評価額を計上する必要がありません。例えば、MS法人の株主に理事長の配偶者がいて、その配偶者の株式持分評価をする場合は、土地所有者と法人株主が別人であるため、借地権評価額計上は不要となります。

将来的な相続対策としてMS法人の株式の贈与を行う場合等は、その評価方法に注意しなければなりません。

参考条文:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/850605/01.htm

6(相当の地代を収受している場合の貸宅地の評価)の注意書

最も注意すべきは提出後の税務上メンテナンス

この届出書の最も注意すべきことは、提出して終わりというものではなく、提出後継続的に、その内容が現状に則しているか確認が必要となる点です。

例えば、届出書の内容には地代の年額を記載する欄もあり、使用貸借から地代を支払うことに変更した場合や、地代の金額を改定した場合などは、その都度届出書を提出し直さなければなりません。

さらに注意すべき点は、地代の年額が適正か否かを確認することです。

毎年特に気にせず同じ金額を継続的に支給していて、知らない間にその金額が固定資産税相当額程度になっていたりすると、使用貸借扱いとなる可能性があります。

また地代を毎年払っていても、過去に適正に経理がなされていなかった期間がある場合等も同様です。

届出書の提出が相当昔の場合で、地代の金額を長らく変更していないケースは意外と多いので、注意が必要です。

使用貸借扱いとなると、当初見込んでいた相続対策が全て水の泡となるので、届出書提出後は抜かりの無い税務上のメンテナンスが必須となります。

相続発生時は、相続税専門税理士などへ単発で依頼するケースが多いかもしれませんが、過去の行為まで遡って修正することは難しいところがあります。

ゆえに顧問税理士が、毎期必ず、届出内容と現状に不一致が生じていないかを確認することが求められます。

まとめ

土地の無償返還に関する届出書は、提出するまでは誰もが行っていると思います。

ただ、その後のメンテナンスまでは気が回らないケースが多いように思います。

毎期、所得税や法人税に気を配って節税を行ったつもりでも、出口の相続税で節税されなければ意味がありません。

こういった税務的事象は、長きにわたり確認作業が必要となるので、顧問税理士が常に責任を持ってケアする必要があります。

ゆえに私は、顧問税理士はコロコロ変わらない方が良いと思っています。

また顧問税理士事務所内で、今の担当者に信頼を置いているのであれば、担当者を変えないように事務所へ働きかけるのも良いと思います。(事務所の都合にもよりますが)

いずれにせよ後任に適正に引き継がれないと、将来的に大きな問題に発展する可能性があるので注意が必要です。

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