小規模宅地等の特例の応用② ~老人ホーム入居の場合~

以前、在宅医療を行っている先生からのご紹介で、先生が受け持っている患者様の親族から、相続対策に関する相談を受けました。

相談内容は相続税試算が主でしたが、小規模宅地等の特例に係る論点もありました。

(小規模宅地等の特例の概要の記事はこちら)

亡くなった方の自宅を相続する場合の特例(小規模宅地等の特例の概要)

相談内容に関する概要は下記です。

(実際にあった相談と、内容はかなり変更しています。)

・母が住んでいた土地及び建物があるが、昨年、母は老人ホームへ入所しているため、現在は空き家である。

・土地と建物は母の名義で、父は4年前に他界している。

・推定相続人は息子1人で、今回の相談者である。

・息子は5年前に結婚を機に親元を離れ、賃貸物件に妻とともに同居している。

・母が老人ホームに入り実家が空き家となっているが、自宅に戻ってくる可能性もあるため、息子夫妻は時折実家へ帰り掃除などの管理をしている。

・母の老人ホーム入居に係る費用は、母が全額負担している。(息子とは別生計)

上記の前提のもと、息子が母の自宅へ戻ることを検討している。

その場合、小規模宅地等の特例を受けられるか考察していきます。

ちなみに、小規模宅地等の特例の相談については、聞いた内容をこちらで勝手に解釈して、その場で簡単に回答できるものではありません。

実情を詳細に伺う必要がありますが、相談を受けた範囲で回答するならば下記となります。

老人ホーム入居に係る小規模宅地等の特例について

被相続人が自宅を離れ、老人ホームに入居後に相続が発生した場合で、小規模宅地等の特例の適用を受けるには、下記の要件を満たす必要があります。

主な要件

①被相続人が相続開始直前に、介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていたこと

②被相続人が老人福祉法等に規定する老人ホーム等に入居等していたこと

③被相続人の老人ホーム等入居後に下記の用に供していないこと

 ・賃貸や事業のために使用

 ・被相続人及び生計一親族以外の者の居住の用

①の要件の考察

要介護認定等とは、主に要介護認定と要支援認定を受けていることをいいます。

この判定は、老人ホーム入居時でなく、死亡時点で判断しますので、特例適用の際は、介護認定等の更新が適正に行われているかを確認する必要があります。

ちなみに介護保険法に、「要介護認定は、その申請のあった日にさかのぼってその効力を生ずる。」とあります。(要支援認定も同様の規定あり)

ゆえに、要支援要介護認定等の申請中に相続が発生した場合は、相続発生後に要介護認定等が認められれば、遡及して相続発生時点で要介護認定等がなされたものとされて、小規模宅地等の特例の適用の対象となります。

②の要件の考察

老人福祉法等に規定する老人ホーム等とは、いわゆる都道府県に届出を行っている老人ホームを指します。

適用を検討している場合は、各都道府県に問い合わせ又はホームページを確認等する必要があります。

ちなみに、東京都では下記のホームページに主な一覧が記載されています。

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kourei/shisetsu/gaiyo/osagashi.html

③の要件の考察

上記例で、仮に老人ホームへ入居する前に、母と息子が同居していた場合、母が老人ホーム入居後に自宅に戻ることなく相続が発生した場合でも、息子は小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

今回論点となるのは、母が老人ホーム入居前に、息子が同居していなかったことです。

母が老人ホーム入居した後に実家が空き家となった場合でも、生計一親族が居住の用に供するのであれば、小規模宅地等の特例の適用対象となります。

ただ、上記の例では母と息子は別居しており、かつ、両者は別生計です。

ゆえに上記の例で、母が老人ホーム入居後に息子が自宅へ戻って居住の用に供してしまうと、小規模宅地等の特例の適用対象外ということになります。

別の話となりますが、息子は現在、母の自宅とは別の賃貸物件に住んでいて、過去に持ち家を所有したことがないのであれば、いわゆる「家なき子」に該当します。

(家なき子特例の記事はこちら)

小規模宅地等の特例の応用① ~家なき子特例の適用可否判断~

ゆえに、母が老人ホームへ入居後に相続が発生し、その時点で息子が別の賃貸物件に住んでいる場合は、小規模宅地等の特例の適用の対象となる余地があります。

まとめ

将来的に親族が老人ホームへ入居することが予想される場合、前もっての同居を検討するなど、将来を見据えた対策が肝要です。

小規模宅地等の特例は、以前のブログでも念押ししていますが、適用の可否で相続税が大幅に増減するので、適用要件の入念な確認が必要となります。

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