小規模宅地等の特例の応用① ~家なき子特例の適用可否判断~

先日、保険関係の方から、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地・家なき子特例)に関する問い合わせがありました。

(小規模宅地等の特例の概要の記事はこちら)

亡くなった方の自宅を相続する場合の特例(小規模宅地等の特例の概要)

相談内容に関する概要は下記です。

(実際にあった相談と、内容はかなり変更しています。)

・父と2人で同居している息子が、独立を境に家を離れ、別の賃貸物件へ転居することにした。

・現在同居している土地と建物は父の名義で、母は10年以上前に他界している。

・父も比較的高齢のため、万が一のことがあった場合には小規模宅地等の特例の適用を受けたいと考えている。

そこで仮に父が亡くなった場合、

 質問①:息子は別のところへ転居するが、住民票を変更しなければ住所は同一なので、家なき子特例でなく同居親族の要件を満たし、小規模宅地等の特例の適用を受けられるのではないか。

 質問②:転居して3年以上経てば、家なき子特例の適用を受けられるのではないか。

 質問③:質問②で、父が住んでいた土地及び建物に戻らなければ、家なき子特例は受けられないのか。

という相談です。

小規模宅地等の特例の相談については、聞いた内容をこちらで勝手に解釈して、その場で簡単に回答できるものではありません。

実情を詳細に伺う必要がありますが、相談を受けた範囲で回答するならば下記となります。

家なき子特例の要件

家なき子特例の要件は多岐に渡るので、1つ1つを詳細に把握する必要があります。

主な要件

 ①被相続人に配偶者がいないこと

 ②被相続人に同居の相続人がいないこと

 ③相続開始前3年以内に、下記の方が国内に所有する家屋(※)に住んだことがないこと

   ・取得者本人

   ・取得者の配偶者

   ・取得者の三親等内親族

   ・取得者と特別の関係のある一定の法人

 ④相続開始時に、取得者が居住していた家屋を過去に所有したことがないこと

 ⑤相続開始時から申告期限まで引き続き所有していること

(※)相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く

質問① 住民票移転の有無

被相続人と同居していたか否かの判断に、住民票の記載は関係ありません。

あくまで実態で判断します。

仮に税務調査などがあった場合、同居の実態を調べられることになります。

場合によっては、水道のメーターや郵便物の配送状況なども調べられ、生活の本拠がどこにあったかなどは比較的容易に把握されます。

住民票記載の住所は、あくまで字判断材料の一つに過ぎないことを頭に入れておきましょう。

質問② 転居して3年以上経てば、特例適用可能か?

結論から言えば、転居してから3年以上経たなくても家なき子特例を受けられます。

一見、特例の要件③「相続開始前3年以内に、下記の方が国内に所有する家屋(※)に住んだことがないこと」に抵触し、要件を満たさないように感じます。

ただ、(※)の注意書きで、「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く」とあります。

 息子は、除外規定の項目に該当することになるため、転居後の年数に関わらず、家なき子特例の要件を満たすことになります。

質問③ 父の家に戻らなければ特例適用は不可か?

家なき子特例の要件をよく読むと、継続保有要件はありますが、居住要件はありません。

ゆえに転居した後、父が亡くなった場合でも、父が住んでいた家に戻るか否かは要件に影響を及ぼしません。

ゆえに、申告期限まで継続して所有さえしていれば、戻って住まなくても、家なき子特例の要件を満たします。

まとめ

家なき子特例の要件はとにかく複雑です。

相続対策を行う場合は、必ず要件を満たすか詳細を調べて、入念に検討するようにしましょう。

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