税理士は給与計算をやるべきか

先日、他士業の方から医療機関のご紹介案件があり、簡単に話を伺うと、従業員の給与で顧問税理士との間にトラブルが生じているとのこと。

私は、社会保険業務は当然として、給与計算も税理士がやるべきではないと思っています。

その理由をまとめました。

トラブルになりやすい

社会保険業務の専門は社会保険労務士です。

社会保険労務士の独占業務は、下記の1号業務と2号業務(社会保険労務士法第2条第1項第1号及び2号)と言われています。

1号業務:労働及び社会保険に関する法令に基づき行う申請書等の作成並びにその手続代行等

2号業務:労働及び社会保険に関する法令に基づき行う帳簿書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等)の作成

上記社会保険労務士の独占業務の中に、給与計算は含まれていないため、給与計算を税理士が請け負うこと自体に問題はありません。

(ちなみに、社会保険労務士法第27条によれば、上記の2つも「有償独占」であるため、無償であれば社会保険業務を税理士が行うことは、条文上は問題ないと解釈されます。)

税理士法人や税理士事務所で給与計算を請け負うところは、今でも一定数あるようです。

私も独立当初、顧問先がほとんどなかった時代には、料金表に「給与計算報酬〇〇円」と記載して、サービスに含めていました。

(少数までと人数制限は設けていましたが。)

顧問契約が喉から手が出るほど欲しい時期でしたので、やむを得なかったかもしれません。

実際、ご依頼されることはありませんでしたが、今仮に給与計算を請け負っていたらと思うとゾッとします。

私は独立前に、税理士開業セミナーに参加したり、既に開業している諸先輩方にお願いし、飲みに連れて行って頂いたりして、積極的に情報を集めていました。

その諸先輩方が口を揃えて言っていたのが、「給与計算は請け負わない方がいい」ということ。

「少額でも間違えたら、一発でクレームになる。」

「税務の仕事に集中できなくなる。」

「給与計算はあくまで社会保険労務士が専門」

というのが主な理由。

中には、

「給与締日及び支払日がどの顧問先も同じならまだいいが、実際の基準はバラバラ。15日締25日払のところもあれば、末締翌月払のところもある。せっかく独立したのに、日時に縛られ自由もなくなり旅行などに行けなくなる。」

というような意見もありました。(飲んでいたので、どこまで本音か不明ですが。)

私の前職では、毎月の税務顧問の他に給与計算も請け負っていましたので、そこに勤務していた私も当然、給与計算を行っていました。

やはりクレームになりやすい業務なので、チェックは厳重に行っていました。

このころの経験が、今、逆に生きています。

税理士は社会保険業の専門ではない

税理士の業務は、あくまで会計税務が主となります。

毎年のようにあらゆる税目で改正がなされ、最新の情報を逐一仕入れ、それを勉強して整理し、常に顧問先様にとって何が最適かを考えなければなりません。

これだけでも、とてつもない労力を必要とします。

それでありながら、さらに社会保険業務にまで頭を使うのは無理があるように思います。

(一部の超人を除いて。)

毎月の単純な給与計算だけであればまだ請け負う余地はあるかもしれませんが、実際は下記にも注意を払う必要があります。

 ・有休残管理

 ・最低賃金確認

 ・昇給

 ・時間外労働算定

 ・従業員の職務に合わせた手当の考察

 など。

従業員の方々が毎日真面目に勤務して得るべきお金です。

仮に請け負うのであれば、細心の注意を払って業務に取り組む必要があります。

給与計算を間違えると従業員からの信頼を失う

給与計算を間違えたことによる一番のダメージは、何より従業員からの信頼を損なうことでしょう。

日常の診察は、先生や看護師、事務員など従業員総出で行い、皆で診療所を支え、その対価が患者様からの信頼に繋がり、診療所の売上の根源となり、従業員の皆様へ給与として還元されます。

その給与を間違えたら、せっかく診療所に尽くしてくれている従業員からの先生への信用が損なわれます

これはゼニカネの問題ではありません。

長年勤務してくれる従業員、または今後長く勤務してくれる予定の従業員は、いわば診療所の宝です。

社会保険労務士への報酬を出し惜しみして、より大きなものを失うことのないようにしたいものです。

少なくとも税理士が安易に給与計算を請け負うのは、私は賛同しかねます。

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